あなたは、葬祭扶助制度ということばを聞いたことがあるでしょうか?
あまり聞きなれないと思いますが、実は生活保護を受けている方にとっては、とても大切な制度です。
もしあなたが生活保護を受けておられて、愛するご家族の葬儀をしなければならなくなったとしたら、大変困ることでしょう。
ここでは、そんな時に利用できる葬祭扶助制度について、制度の仕組みや制度を利用してできること、さらに申請方法まで詳しくお伝えしていきます。
【目次】
葬祭扶助制度について
まずは、聞きなれない葬祭扶助制度がどんな制度であるのか、みていきましょう。
日本の法律で定められる「生活保護法」
日本では、「生活保護法」という法律により、経済的に困窮しているすべての国民に対して、生活が保護されています。
葬祭扶助については、「生活保護法」の第18条において定めが書かれており、経済的困窮により葬儀をできない人のために、必要最低限の費用を負担してくれる制度のことを葬祭扶助制度といいます。この制度を利用することにより、実質0円で葬儀を行うことができます。
葬祭扶助制度の対象者
葬祭扶助制度を利用できる対象者は、次のようになります。
- 生活保護を受けている人が喪主となる場合
- 亡くなった方が生活保護を受けていて、遺族以外の人が葬儀をする場合
葬祭扶助制度の基準支給額
葬祭扶助が支給される金額は、申請される方の住民票のある地域により異なります。
級地別 | 基準額 | |
大人 | 小人 | |
1・2級地 | 206,000円以内 | 164,800円以内 |
3級地 | 180,300円以内 | 144,200円以内 |
(引用:お手本にしたいお葬式)
住民票のある地域がどの級地にあたるか調べるには、「生活保護の総合サイト」の級地検索が便利です。
葬祭扶助制度を利用してできること
では、葬祭扶助制度を利用すると、具体的に何ができるのかをみていきましょう。
必要最低限の葬儀
「生活保護葬」とも呼ばれる葬祭扶助制度を利用した葬儀ですが、およそ20万円前後の支給額でできるのは、必要最低限のものとなります。
生活保護法の第18条にも、次のように範囲が定められています。
- 検案 (注:死亡の事実を医学的に確認すること)
- 死体の運搬
- 火葬又は埋葬
- 納骨その他葬祭のために必要なもの (注:納骨は骨壺への収骨まで)
上記をみてもわかるように、必要最低限の葬儀とは、お通夜や告別式を行わない直葬ということになります。直葬では、宗教者にお経をあげてもらうことや祭壇を設けることはできません。
葬祭扶助制度での葬儀の流れ
ご臨終
⇩
遺体の搬送
⇩
葬祭扶助の申請
⇩
死亡届の提出と火葬費用の減免申請
⇩
火葬・収骨
葬祭扶助制度での葬儀を行う際の注意点
死亡確認が行われたら、できるだけ速やかに葬祭扶助の申請をしましょう。申請する場所は、申請者の住民票がある自治体の福祉事務所です。市町村によっては役所の福祉課や保護課というところもあります。
生活保護を受けている方で、担当のケースワーカーや民生委員が決まっておられるなら、直接担当者に連絡してもいいでしょう。
葬祭扶助の申請は、必ず火葬をする前に済ませてください。先に立て替えてあとから申請しようとしても、葬祭費用を負担して支払いできるとみなされて、葬祭扶助の申請が通らない可能性もあります。
また、葬祭扶助制度を利用したい旨を、葬儀社にもあらかじめはっきりと伝える必要もあります。お互いにしっかりと意思疎通ができていないと、結局自腹で葬儀費用を支払わなければならないことになりかねません。
さらに、葬祭扶助制度を利用する葬儀は直葬となりますが、支給される費用にプラスして、式場を借りたり祭壇を設けたりすることなどはできません。自分たちで葬儀をできるとみなされ、葬祭扶助は必要ないと判断されるためです。
葬儀社選びは慎重に
葬祭扶助制度を利用して葬儀を行うことになったら、葬儀社を選ばなければなりませんね。この際にも、注意が必要です。
葬祭扶助制度での葬儀の場合は、葬儀社によって内容が異なるということはほとんどありません。しかし、やはり葬祭扶助制度について熟知している業者を選んだに越したことはないでしょう。
葬儀社は、おおむね24時間365日対応です。死亡届の提出などを代行してくれる業者も多いです。葬祭扶助制度での葬儀を扱っていれば、制度の申請方法などについても親切に教えてくれるはずです。
葬儀社によっては、葬祭扶助制度を利用したいと聞いた途端に嫌な顔をしたり、雑な扱いをした例もあるようです。葬儀社が葬祭扶助制度での葬儀に対応しているかを確認したうえで、気持ちよく相談に乗ってくれる業者を選ぶことをおすすめします。
葬祭扶助制度の申請方法ならびに支給までの流れ
次に、葬祭扶助制度の申請方法と支給されるまでの流れについてみていきます。
まずは、福祉事務所へ
亡くなられたあとにまずすることは、管轄の福祉事務所へ連絡することです。管轄とは、葬祭扶助を申請する方の住民票がある福祉事務所になります。故人の住民票があるところではありませんので、注意しましょう。
申請する際には、死亡診断書もしくは死体検案書が必要です。死亡届を提出するときには、火葬場使用料の減免申請もあわせてします。
葬祭扶助が認められたら
自治体により葬祭扶助が認められたら、葬儀社へ連絡となります。その際には、必ず葬祭扶助制度を利用することを伝えましょう。お互いに意思疎通ができていないと、あとから、葬儀費用を請求されることもあり得るので気をつけましょう。
葬儀の実施
葬儀社が決まったら打ち合わせをして、遺体の搬送から安置、火葬の手配をしてもらいます。火葬が終わり骨壺へお骨を納めるところまでが、葬祭扶助制度でできることです。
葬儀が終わったら
葬儀が終了すると、葬儀社が福祉事務所などへ葬儀費用を請求します。葬儀費用は直接葬儀社へ渡ることが多いようですが、自治体によっては申請者へ支払うところもあるようです。その場合には支給された費用を葬儀社へ支払うこととなります。
葬祭扶助制度での葬儀Q&A
葬祭扶助制度を利用して葬儀をする際に、おさえておきたいポイントをQ&Aにしてみました。
戒名はつけられる?
残念ながら、戒名は葬祭扶助の対象とはなりません。戒名をつけるには、最低でも数万円単位のお布施が発生します。戒名は仏門に入った証拠として与えられ、出家をしていなくてもつけてもらえますが、必ずしもつけなければならないというものではありません。お布施を支払う能力があるのなら、葬祭扶助も必要ないとみなされてしまうでしょう。
供花は?
お花を供えたりすることもできません。戒名と同様に、供花をする余裕があるのであれば、葬祭扶助は必要ないということになってしまいます。
香典は?
香典については、社会的な通念上、収入として認めるのは適当ではないとされています。ですから、喪主にお渡しするお香典は、収入とはみなされません。また、故人が生活保護受給者でも、お香典が没収されることはありません。
納骨は?
葬祭扶助制度で認められているのは、骨壺への収骨までです。そのあとはどうすればいいのでしょうか?
菩提寺があればいいのですが、お墓を用意するとなると、それなりに費用がかかってしまいます。しかし、納骨堂や永代供養を利用するなら、5万円前後からできるところもあります。
近年では、納骨をせずに海や山へ散骨したり、自宅での手元供養を選択する人も増えています。
また、収骨することを拒否するという選択肢もあります。地域にもよりますが、特にお骨の一部分しか収骨しない関西では、収骨の拒否を認めているところがあります。その場合、通常は火葬場によって供養と埋葬がなされます。
まとめ
生活保護を受けておられる方のために、葬祭扶助制度について、また制度を利用して葬儀を行う方法をお伝えしてきました。
葬祭扶助制度は、生活保護を受けておられる方なら等しく利用できる制度です。経済的な理由で、愛するご家族の葬儀が出来ないと心配することはありません。
葬祭扶助制度でできる葬儀は、必要最低限のものすなわち直葬です。制度を利用する際には、必ず葬儀社へ連絡する前に、申請者の住民票がある福祉事務所へコンタクトをとりましょう。
この記事を参考にされて、つつがなく手続きができますことを願っています。
