日本の最南端に位置する沖縄県。
観光地として有名ですが、沖縄には歴史的背景によって本土と違う独特の伝統文化があることでも知られています。
葬儀についても、沖縄独自の文化や考え方によって本土との違いが多く見受けられます。
葬儀を行う上で特に告別式は一番重要視されており、本土の告別式とは様々な違いが存在しています。
沖縄で告別式に参列する際に、何も知らずに参列すると失礼にあたる場合もありますので、事前に沖縄の告別式と本土のそれとの違いについて知っておくことは大切です。
この記事では沖縄の告別式の特徴や、マナーについてご説明していきます。
【目次】
沖縄の告別式の特徴
沖縄の告別式は、本土の一般的な告別式と比べて驚く点がたくさんあります。沖縄県外出身者の方が実際に参列しても困らないように、沖縄の告別式の特徴を5つ紹介します。
告別式のみに参列する
本土では、訃報の連絡を受けたらすぐに故人の元へ駆けつけるのが良しとされ、通夜・告別式の両方に参列することも珍しくはありません。
しかし沖縄では、通夜というものは一般的ではなく、通夜振る舞いという習慣もありません。遺族が故人と過ごす最期の時間という認識なので、基本的に通夜ではなく告別式に参列します。
様々な事情でどうしても告別式に参列できない場合は弔問することもできますが、遺族に確認した上で行う必要があるでしょう。
沖縄では告別式前に火葬をする「前火葬」が一般的
葬儀・告別式を経て火葬をする「後火葬」が一般的ですが、沖縄では告別式前の火葬を済ませてしまう「前火葬」のところが多くなっています。
告別式の際は祭壇にお骨を祀ることになるので、故人のお顔を見ることができるのは通夜のみとなります。
どうしても故人のお顔を見ておきたい場合は通夜に参列しなければなりません。
また、告別式と火葬の順番は、地域の気候が大きく関係しています。
温暖な気候の沖縄は、遺体の腐敗が進むのが早いため告別式の前に火葬をすることが一般的になりました。
日本では沖縄の他に東北地方も前火葬を行っています。
葬儀・告別式に僧侶を呼ばないことも
沖縄には檀家制度がありません。
【檀家制度とは】
江戸時代から日本で始まった制度。家(檀家)が特定の寺院へお布施や経済的な支援を行い、その代わりに寺院がその家(檀家)の葬祭供養を行うというもの。元々はキリスト教を排除する目的で作られた制度とも言われています。
また、沖縄では独自の自然崇拝・先祖崇拝の信仰が古くから伝えられていることから、仏教的な儀式を行わないこともあります。
最近では本土の仏式葬式も浸透しつつありますが、僧侶を呼ばずに地域のユタ(霊能力者)を呼ぶこともあります。
地域によってはユタへの信仰が厚く、節目ごとに占ってもらったり、悪霊を取り払ってもらったりと沖縄の人にとってはとても結びつきが深い存在だと言えるでしょう。
告別式の情報は新聞に掲載する
沖縄の新聞には、「告別式広告」の欄が設けられており、告別式の日時や場所を新聞に掲載することが一般的です。
そのため、訃報の連絡を受けた場合は新聞を確認した上で告別式会場へ集まってきます。
新聞には、故人や喪主の氏名、告別式の場所や日時だけでなく、故人の死因、同居家族や親戚の氏名など詳細な情報まで掲載されているのが特徴的です。
葬儀社からの見積もりの中には必ず「新聞告知掲載料」が含まれており、掲載する遺族の数によって料金が異なってきます。
沖縄県外の人がこの広告記事を見ると、一見有名人の告別式かと感じてしまいがちですが、沖縄では当たり前のことです。これだけ広く知らせるため、沖縄の告別式には多くの知人・友人が集まり大規模な告別式となるのが一般的なんですね。
告別式の日に納骨まで行う
沖縄では、故人が入るお墓がすでにある場合、告別式を終えたらそのまま納骨をするのがしきたりとなっています。
納骨式では、僧侶ではなくユタがとり仕切ることが多いという特徴もあります。
また、現代ではあまり見られなくなりましたが、納骨式の翌日の朝から初七日まで毎日お墓参りをする「ナーチャミー」という風習もあります。
それでは、なぜこのように沖縄の告別式は本土とは違う特徴がいくつもあるのでしょうか。沖縄がたどってきた歴史に着目して見ていきましょう。
沖縄の告別式が本土と異なる理由
沖縄の告別式が本土と違い特徴的な理由としては、信仰や思想の違いが大きく影響しているのではないかと言われています。
15世紀〜19世紀ごろ沖縄では琉球王朝が栄えており、琉球神道という多神教宗教が信仰されていました。
自然には神々の魂が宿り、その力が自然を作り出し美しいものにしているという自然崇拝や、人は亡くなって神となり、子孫を守る存在になるという先祖崇拝が沖縄の独特な葬儀・告別式を作り上げてきました。
現在はこれらの信仰はとても強いわけではありませんが、これらの信仰が与えた葬儀・告別式への影響が大きく、その風習を守ろうとする気持ちが強いということが伺えますね。
沖縄の告別式・四十九日までの一連の流れ
沖縄では、四十九日まで細かな儀式が定められています。
近年では多少の変化は見られるものの、まだまだ沖縄に根深く残っている儀式があることも事実です。
故人がお亡くなりになられてから、四十九日を迎えるまでの一連の大まかな流れについてご説明します。
臨終から火葬まで
アミチュージ(遺体を洗い清める)
故人がお亡くなりになるとアミチュージと呼ばれるご遺体を清める儀式が行われます。本土でも行うエンゼルケアとよく似ているものです。
グソースガイ(着替え)
アミチュージの後はグソージンという死装束もしくは故人が生前愛用していた洋服を着せます。
グソージンは奇数である5枚か7枚着せることが多く、天国で水と交換できる「針」グソージンの襟元に差しておきます。襟元に14針を差し、その先に白と黒の糸をつけるのが習わしとなっています。
安置
自宅や斎場でご遺体を安置しますが、安置する頭の向きも本土とは異なる点があります。
本土では、「北枕」が一般的とされていますが、沖縄では「西枕」にします。これは、太陽が沈む方向に死者が帰っていくと考えられているからです。
納棺の儀
沖縄の儀式の中でも大切だと言われている納棺の儀。
喪主が焼香を行い、ご遺体をぬるま湯で綺麗にします。その後白装束を着せ棺へ納めます。
沖縄ではその昔ご遺体を棺箱に納めていたことから、棺が少し小さく深い作りになっています。納棺の際にご遺体の膝を少し立てて入れ、枕元に豚の三枚肉をお供えします。
出棺の儀〜火葬
告別式の前に火葬を行う沖縄では、通夜の後に出棺の儀を行い、火葬場へと運び火葬をします。
葬儀式・告別式
本土では、葬儀と告別式を区別せず一緒に行うのが一般的となっていますが、沖縄では葬儀式と告別式を分けて行います。
葬儀式が先に約30分ほどあり、その後席移動をして告別式を開会します。告別式は約1時間行われます。
沖縄での葬儀式は、僧侶により読経(呼ぶ場合のみ)、喪主・遺族・親族による焼香が主に行われ、告別式では友人・知人が焼香を行います。(喪主・遺族は焼香を行いません)
納骨から初七日まで
納骨式
入るお墓が決まっている場合、告別式の後納骨式を行うのが一般的です。
ナーチャミー
納骨式の翌日から初七日までの間、「ナーチャミー」と呼ばれるお墓参りを行うという風習があります。
初七日から四十九日まで
ナンカスーコー
初七日らから四十九日までの間は毎週「ナンカスーコー」と呼ばれる週忌焼香が行われます。家族だけではなく、親戚や故人と親しかった友人などが毎週のように香典をもって集まります。
ごく身近な身内のみで行われたり、毎週ではなく奇数週に集まったりと昔からのしきたりにもだんだんと変化が見られてきました。
近年では、繰上げ法要として初七日に四十九日と併せて行われることも増えています。
沖縄の告別式でのマナー
沖縄で告別式に参列する際には本土と違った様々なマナーがあります。
知らなかった!では済まされず、マナー違反になってしまうと悪い印象を与えてしまうので、参列前に一度チェックしておいて欲しいマナーを3つ紹介します。
香典の額と渡し方
沖縄の中でも地域よっても香典の額は異なりますが、知人・友人などで千円〜三千円が相場です。自治会などで香典の額を決めているというところもあり、その場合は「一律千円」ということがほとんどです。
沖縄の場合、初七日から四十九日まで毎週「ナンカスーコー」(週忌焼香)があり、親族や親しかった友人が参列するのは一般的で、その法要に参列する度に香典を渡すのがマナーとなっています。
そのため、沖縄でも本土でも香典の合計金額はさほど変わらないという計算になります。
一度の香典の額は少ないですが、何回も足を運んで故人や遺族に顔を出すことが沖縄では大切なことだと考えられています。
服装や持ち物のマナー
沖縄の告別式へ参列する際は、男性は黒のスーツに黒のネクタイ、女性は黒のスーツかワンピースなどといった本土と同じような喪服でかまいません。
ただ、夏の時期は気温も高くなることから、沖縄独自のかりゆしウェアを着ることも可能となっています。喪服のかりゆしウェアも最近では販売されています。
女性向けのかりゆしウェアはまだ数が少ないため、露出を避け、気温に合った喪服を選ぶといいでしょう。
また、沖縄では仏教があまり根付いていないため数珠を持参する必要はありません。
告別式に参列してはいけない人
沖縄では、自然崇拝、先祖崇拝の信仰があったことから独特の死生観を持っていることから、シニフジョー(死に不浄)という言葉が存在しています。
言葉のとおり死に対して畏れや穢れ(けがれ)の念があるため、告別式に参列してはいけない人が定められています。
妊娠をしている女性とその夫
妊婦が告別式に参列すると魂が引っ張られ、赤ちゃんの命が奪われるもしくは障害を持つ子が産まれるなどという言い伝えがあります。
本土から嫁いできた妊娠中の女性が、何も知らずに沖縄で告別式に参列した際、「お腹の子に何かあったらどうするんだ」と親族をはじめ見ず知らずの参列者からとても批判されたという事例もあります。
しかし、現代の若者は年配者に比べ風習を気にする人が減っているため、風習よりも故人とのお別れを優先する人も増えてきています。
故人ととても親しくどうしてもお別れを言いたい場合は参列することもできます。その場合は、風習を気にする年配者への配慮も含め、長居はせずにすぐ帰ることが一般的とされています。
家や墓を新築した家主やその家族
家や墓を新築して一年未満の家主やその家族が告別式に参列すると「カリーヤンジュン」といって不運を招くを言われています。
故人と同じ年、同じ干支や生まれ年の人
故人と同じ年や干支、沖縄の旧暦カレンダーで生まれ年の干支にあたった人は沖縄の告別式に参列してはいけないと言われています。こちらも魂が吸い取られる、不運なことが起きるなどと言われています。
病人や体が弱っている人
病気をしている人、体が弱っている人は病気が悪化してしまうということから告別式への参列がタブーとなっています。
沖縄では昔からある風習や考え方によって告別式へ参列してはいけない人が定められています。
実親の告別式であっても周りから参列を反対されるケースや、風習自体気にしないで参列するといったケースもあり、近年考え方は地域や家庭によって様々となってきています。
告別式への参列を反対された場合、香典は参列する人に預けるか、郵送する、または告別式後に訪問して渡すことができます。
親族の場合、納骨後からの法要では参列しても問題ないという考え方や、四十九日までは避けておくなどさまざまです。
地域や家庭によってはこのような風習を気にしないところもあるので、もし当てはまる場合は事前に確認しておくのが良いでしょう。
まとめ
長年独自の文化を保ってきた沖縄。その沖縄の告別式には独特の特徴があることがわかりました。
中でも新聞での告別式の広告に関しては特に驚かれる方が多いです。
沖縄は家族・親族、集落など人と人とのつながりがとても深く、助け合いの精神がとても強い土地です。そのため告別式の広告も大々的に行い、多くの親族、知人・友人で故人の死を葬ろうという考えにつながったのではないでしょうか。
沖縄で告別式に参列する際は本土とは異なる点がたくさんありますので、ぜひご参考にしていただいて、余裕をもって故人を送り出していただきたいものです。